給料の一部をボーナスに回すと社会保険料が減る裏技
東洋経済オンラインにこのような記事がありました。
記事によりますと、ファイナンシャルプランナーに来た相談者の傷病手当金を計算するためにねんきん定期便を確認するところから始まります。
そこで確認したところ、給料が少なくボーナスが異様に多い状態でした。そして社会保険保険料の算定に用いる標準報酬月額と毎月の給料額に大きな開きがあることが判明しました。
なぜ給料よりもボーナスに比重を置くと社会保険料が減るのかと言うと、それぞれの基準額の上限が違うことを利用しているようです。
このような事象を「社会保険料削減ビジネス」というようです。
社会保険料とは
社会保険料とは健康保険と厚生年金、雇用保険等の保険料のことです。各保険料は月の給料から設定される標準報酬月額と、ボーナスの金額から設定される標準賞与額から計算されて給料やボーナスから天引きされます。
標準報酬月額の対象になるのは基本給の他、残業代や各種手当、年4回以上のボーナスが対象になります。
また雇用保険については業種により異なりますが毎月の給料の9~14/1000掛ります。
標準報酬月額は毎年4~6月に支給された報酬の平均額を通年の給料額として計算します。そこで算出された保険料がその年の9月から1年間適用されます。
どちらも収入に比例して保険料が上がっていきますがその額には上限があります。
標準報酬月額
- 健康保険・・・・・1ヶ月あたり62万円
- 厚生年金保険・・・1ヶ月あたり139万円
標準賞与額
- 健康保険・・・・・年度の累計額573万円
- 厚生年金保険・・・1ヶ月あたり150万円
※2020年6月時点
ちなみに厚生年金保険の月額上限については、全被保険者の平均標準報酬月額の概ね2倍程度に設定されています。
支払った保険料はその金額に応じて、将来の年金や傷病手当金、失業保険などの金額に関わってきます。当然高い保険料を支払えば貰える金額は多くなります。
社会保険料を抑える技
さて、社会保険料は労働者と会社で折半して支払います。会社側は給料とは別で保険料の負担があります。そのため保険料を抑えたいインセンティブが会社側に生まれるはずです。
よく使われる手法として特定期間の残業を減らすことが挙げられます。
標準報酬月額は毎年4~6月に支給された報酬の平均額を通年の給料額として計算します。そのためその期間は残業を抑制して支給額も抑えることで平均額を下げられます。結果的に保険料も抑えることが出来ます。
また昇給の時期を7月にすることで算定期間の支給額増額を抑える手法もあるようです。
他にも合法的な節約策があるようです。
詳しくはこちらのサイトに掲載されています。
そして今回の記事で相談者に適用されているのが給料の一部をボーナスに回す手法もその一つです。これはボーナスの上限額を逆手にとるやり方です。
記事では年収600万円で計算しています。そして毎月50万円の給料の場合と毎月を10万円として残りを年2回支給のボーナスに回した場合で労使それぞれの負担額を計算しています。
それによると、後者は前者よりも33万円以上も社会保険料が少ない結果になるようです。
会社側からすれば年33万円の負担を無くせるのは魅力的でしょう。労働者側からみても手取りが年33万円増えることになるので、一見するといいように見えます。
保険料を減らされるデメリット
しかし標準報酬月額や保険料が安いということはその見返りも少ないということです。
記事では先程の例で傷病手当金で計算してますが、前者は一日11,000円に対して後者は一日2,000円と約1/6にまで下がってしまいました。
傷病手当金は病気等で3日以上働けなくなった時に給料の2/3を4日目から最大1年半支給されるものです。両者の場合9,000円の差があるため、満額支給された時に約159万円の差額が生まれます。
これ以外にも出産手当金や厚生年金などの支給額にも大きな違いが生まれます。
年金の中には障害年金や遺族年金も含まれますので、保険料が少ないとその受給額も減額になってしまいます。
また傷病手当金は今回の新型コロナウイルスに感染した場合にも支給されます。今回に限らず、今後も新しい感染症が発生した場合にも同様の扱いになると思います。
また会社側のデメリットは評判が悪くなる可能性があるぐらいしか無く、かつ会社側の負担軽減分が労働者に回るとは限らないため、労働者が一方的に損するだけと言えます。
社会保険料を抑えたがる会社も問題か
またそれ以前にこのような奇怪な制度を導入する会社にも問題はあるでしょう。
この記事の相談者の場合、会社側から給料の一部をボーナスに付け替える給与体系にする書類を配られ、深く考えずに印鑑を押して了承してしまったようです。
コンサルの意見を鵜呑みにしてその方針を取ることもあるので、必ずしも悪意があるとは限りませんが、従業員にとって不利になる制度変更は安易に導入すべきではないでしょう。
従業員の公的保障に対する負担を回避するのは、従業員を大切にしていないと言えます。あるいは余程資金繰りに苦慮している可能性もありますので、その場合は転職も考えたほうがいいかもしれません。
目先の手取りよりも将来の保障も考えよう
今まで見てきたように社会保険料を減らすことにより、手取りが増えるメリットと、各種の社会保障が薄くなるデメリットがあります。
人によっては年金や傷病手当金よりも目先のお金を増やしたいと、社会保険料を抑えたがるかもしれません。しかし、いつ自分がその恩恵を受けるのか分かりません。
自分が必要とした時に、受けられる保障が乏しいものになっているのは悲しいことです。
また我々の方も不利な条件を安易に飲まないようにすることも大事でしょう。
これらに限りませんが、上司からの軽い説明だけで短絡的思考にならずに、きちんとその内容を理解する必要があるでしょう。
人は仕事のことならよく考えて行動するはずですが、なぜか自分に保険やお金にまつわることには無頓着な事が多い印象があります。そのためか制度を十分に活かせていない人が多いと思います。
特に社会保障制度は人生の始まりから終わりまで深く関係してくることですので、一人一人が関心を持ち適切に制度を利用することで、よりよい社会が維持されるでしょう。
そのためには、適切な負担が無ければ制度の維持は出来ないので、意図的に社会保険料を抑制せずにきちんとした金額を算定してあげる方が社会にとってもいいことだと思います。
(*‘ω‘ *)応援していただけると嬉しいです
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